よりよく進めるためのラボチップス (その1)
§朝、三つの仕事をスタートさせること
朝、早く来て午前中に三つの仕事をスタートさせる。午後はそれらの仕事を終了させるだけの事で相当にはかどる。そのためには、前日の帰る前に次の日の三つの仕事の準備(バッファー、試薬、機器準備など)を済ませておくことである。
§人の3倍努力しようと思うこと
抜きんでようと思えば、まず人の3倍努力しようと思わなければならない。3倍努力しようと思って事に当たれば、人の1.5倍実行できる(3倍努力しようと思わなければ実行できない!)。1.5倍実行できれば成果は1.2倍得られる。実はこの高々1.2倍の成果が大事なのである。ほとんどすべてを決定する。
§常に研究について考えていること:または研究者としての自負について
自分のテーマ、研究については実際に実験に携わっている研究者(大学院生など)は100%の時間それについて考えているはずである。グループリーダーはグループメンバーの人数分考えるわけで、100%割る人数分の時間しか一つのテーマを考える時間がない。ましてや教授となれば100%割る教室員分である。従って、一人一人の研究者はグループリーダーや教授と議論して打ち負かされる訳がない(理論的には)と思うべきである。打ち負かされたらまだ考えが足りないのである。
§研究に devote すること
成功しようと思うなら、自分自身を研究にdevoteせよ。ある期間の自分の生活(人生とは言わない)における第一プライオリティーを研究に向けよ。朝起きてから夜寝るまで、短い食事と用足し以外を研究に関する事に向けるべきである。必ず成功はある。
§努力して実らぬ事はない(例外なしの経験則)
経験からして、努力の結果が実らなかった事例は皆無。努力は何らかの形で必ず報われる。得られる報酬は遅ければ大きく、早くてもそれなりに喜びが得られる。この点については間違いなく楽観的であっていい。
§自分への先行投資
自分への先行投資(経済的、時間的、エネルギー)は積極的にすべきである。もったいないと思わずに前向きに投資することが必要である。特に、自身の身につく技術や知識に対する先行投資に対して逡巡してはならない。
§興味を広げる勉強
現在自分が行っている研究テーマに関連した分野の勉強を些々怠りなくすべきである。自分の研究テーマをより客観的に見られるようになるし、視野もひろがる。そのためには、セミナー室の新着専門雑誌には必ず目を通して興味のある論文はコピーしてすべて分からなくても読むべきである。文献紹介で1報の論文を紹介したとしても、その裏では5報の論文を読み、20報の論文についてはタイトルとアブストラクトを読むべきである。そのためには毎日2〜3報の論文コピーは家に持って帰る。テレビドラマを見る代わりに文献を読むべきである。大学院生が手ぶらで家と大学を行き来しているのを見るとがっかりする。
§できる人を評価し尊敬し学ぶこと
世の中にはいろいろな面で自分よりよくできる人が実に多くいる。そういう人をまず評価し尊敬して、自分には何が足りないのかどうすればよいのかを、それらの人たちから学ぶことが大切である。多くを学べば多くの糧になる。
§研究をエンジョイせよ!
研究は本来楽しいものである。特にうまくいった時は、テニスのラケットのスイートスポットにあたった会心のショットの手応えや、野球でボールがバットの真芯にあたった時の快感と同じである。この大きな喜びに至る過程にはつらい道のりも多い。しかし、そのなかでも研究を進める上でのいろいろな要素(新しい概念との接触、新しい機器や技術の習得、研究室の人とのつきあい、学会への参加、同業者との交流、など)についてエンジョイできる。これらの研究過程上の要素についても楽しむことが大切である。
§休日の過ごし方(1)
休日はそれぞれそのときの状況に応じて自分にあった過ごし方をすればよい。実験が佳境に入って明日にも最新のデータを出したいときは休日に来て実験をすれば人が少ないため普段よりも集中してできるだろう(研究に打ち込んでいる人には休日に来るなといっても来てしまうものだ)。論文を書く前であれば文献を読んでイントロダクションやディスカッションをどう書くか考えるべきである。数週間オーバーワークであれば全く仕事から離れるとがよかろう。
§休日の過ごし方(2)
例えば土曜日の朝に来て金曜日から動かしている機械を止めたり、日曜日の夕方に来て菌の前培養を始めるなどの短い時間の工夫によって研究の能率が格段にあがる。ヨーロッパの研究室は週休二日で優雅にやっているように見えるが、日曜の夕方には約半分くらいの大学院生が来て月曜日の仕事の準備をしていた。
§プロトコール、先輩の伝聞について
プロトコールに書かれていることや、先輩からの伝聞による実験手順は、まず自らその理屈を理解してから取りかからなければならない。先輩からの伝聞が”伝言ゲーム”のように途中で間違って伝えられている事もある。理屈に合わなければ先輩ととことん議論すべきである。また、特に科学的な理由もなく行われていることもある。プロトコールや先輩の言うことは神の言葉ではない。
§自立(しようと)すること
研究者として成功しようと思えば、まず自らのテーマについて全面的な責任を持たなければならない(あるは持とうとしなければならない)。まず、自らのテーマについてイニシアティブをとれることが研究者としての自立への第一歩である。その後、いろいろな経験(後輩への指導・助言→小グループを持つ→大きなグループを率いる)を経て研究者として食べていけるようになる。
§信頼されること、信頼に応えること、信頼すること
研究に限らず物事がうまく進むコツは、まず信頼を得ることから始まる。そのためには真摯に物事に当たることが最も重要である。次に、この信頼に応えることでより大きな信頼が得られる。さらに大事なことは今度はこちらが信頼することである。人と人との信頼関係の良い循環が生まれると大きなパワーにもなり、共通の達成感をエンジョイできたり、他人の喜びを自身の喜びと感じられる。
§9 PRINCIPLES OF SUCCESS "How You can hit Full Stride"(それぞれ自分の訳を書き記せ)
1. HAVE A DREAM
-create a vision for the future
2. DEVELOP A PLAN
-organize your thinking
3. CONTROL YOUR FOCUS
-don't do too many things at once
4. TAKE PERSONAL INITIATIVE
-act as if it all depends on you
5. PRACTICE SELF-DISCIPLINE
-don't be distracted, stay on target
6. LEARN TO BUDGET
-put your time, energy and money behind your plan
7. EVIDENCE ENTHUSIASM
-it's contagious
8. ENJOY YOURSELF
-laughter is healing
9. GO FOR IT!
-keep the faith no matter what.
よりよく進めるためのラボチップス (その2)
§指導的な立場に立ったあなたへ
研究室のOB, OGもそれぞれの方面で指導的な立場に立ち、ラボや研究グループ、チーム、プロジェクトや部、課を指導するリーダーになってきました。そこで、以下はこれらのリーダーになった人たち、あるいはこれからなる人たちへのアドバイスです。以下、ラボと書いたところはどのような集団、組織に置き換えても通用すると思います。
§研究環境の創造とラボメンバーの自己実現
ラボリーダーは、自由闊達で開放的かつ創造的な研究環境をラボ内に作り出し、ラボメンバーが自己実現(ラボあるいは研究生活における)を達成できることを目標として努力すべきである。
§科学研究はフェアな競走であり競争ではない
科学研究はフェアな「競走」であるべきであって「競争」ではない。つまり、ラボ内外において他者が走っていることを妨害するような行為はしてはならない、という当たり前の原理が徹底されることによって、よいラボメンバーの雰囲気が維持される。つまり、自由闊達で開放的かつ創造的な研究環境がもたらされる。
§リーダーは常に見られている
ラボメンバーは常にあなたを見ていることを自覚するべきである。また、その見方は一様ではなく、見る側の先入観やあなたへの期待は、その人の立場やその時の状況によってさまざまである。従って、リーダーはメンバーからどのような見方をされても対処できるように、自ら努力して常に高い見識と広い視野を持たなければならない。
§リーダーの気分はすぐに伝播する
リーダーの気持ちは(明るい気分も暗い気分も)ラボメンバーにすぐに伝染する。従って、ラボメンバーと接するときは、常に明るい前向きな気持ち接するべきである。たとえ、その時自分が暗い気持ちだったとしても、自らを奮い立たせて強いて笑顔で接しなければならない。明るい気持ちで接すれば、相手も明るい気分になり、それがこちらに返ってきてこちらも楽しくなりよい循環が生まれる。いわゆる「ついている人」はいずれも明るく前向きな人である。
§PM理論
ラボリーダーは基本的にはPM理論(いくつかのバリエーションはあるにしても)にのっとるべきである。つまり、P機能(Performance function:目標達成機能)とM機能(Maintenance function:集団維持機能)の両方にバランスよく気を使うPM型(生産性を求めつつ、集団の維持にも気を配る)を理想とするべきである。Pm型(P型)(仕事に対しては厳しいが、グループのメンタルな維持には気を使わない)あるいはpM型(M型)(メンバーの面倒見はいいが、仕事では甘い面がある)はいずれも改善を要する。
§良いリーダーの六つの資質(1)「情熱」と「カリスマ性」
この二つはラボを引っ張っていく上で情緒的に必要なものであり、リーダーの先天的な資質によるところも大きいが、リーダー自身の日頃の努力(=自分自身への鼓舞)が必要である。
§良いリーダーの六つの資質(2)「ビジョン」と「知識」
この二つはラボのパフォーマンスに関するものであり、ラボメンバーの研究方向に自信を与え、ラボに世界スタンダードの中での確固たる基盤を与えるものである。リーダーはラボメンバー以上に新しい知識の吸収が必要であり、先進的なビジョンの設定とメンバーへの不断の伝達が必要である。
§良いリーダーの六つの資質(3)「誠実さ」と「対話能力」
この二つはラボのメインテナンスに関するものであり、共通目標をもった人間集団の健全な維持に最も基本的かつ不可欠な要素である。これ無くしてはラボの経営はなりえない。まずリーダーはこの点について努力すべきであり、長期的な成功には不可欠である。
§落ち着いた明るく晴朗な立ち振る舞い
リーダーは落ち着いた静かな立ち振る舞いの中で、明るい晴朗な雰囲気を持っていることが理想である。これは、ラボメンバーに安心感と信頼を与えると同時に、対外的にも必須な形質である。
§現状への満足感
100%満足できる環境はありえない。マイナス面ばかりに眼が行かず、自らの現状に80〜90%の満足と10〜20%の不満を持つことが、特にリーダーには肝要である。
§ごくごく普通の常識を尊重する
自らもごくごく普通の健全な常識を尊重し、ラボ内でもごくごく普通の健全な常識が尊重されるべきである。そのためにはラボは出来るだけヘテロなメンバーで構成され(よりヘテロな集団にはより健全な常識が生まれる)、またラボ外との人の行き来など開放的な環境つくりが必要である。
§次世代の育成
当然ながら次の世代の人がラボから育っていく。その場合、あなたに近くにいる人もいるだろうし、いろいろな意味で離れていく人もいる。しかし、それらの最終的な選択はもはや本人がするべきことである。その時にはラボリーダーはフェアな立場で善意の助言者として、その人のために真摯に出来る限りのことをすべきである。